今回は、1973年にノーベル賞を受賞した、動物行動学者のコンラート・ローレンツ(名作『ソロモンの指環』など)の著書、『人イヌにあう』についてのあらすじと感想を書いてみました。
【著者 コーラント・ローレンツ 訳者 小原 秀雄 ~至誠堂選書~】
飼い犬に対しては、もちろんのことですが、獣医師やドッグトレーナー、トリマーなど、犬を触る仕事をする以外にも、ドッグカフェや犬用グッズ販売店などで働く人にとっても、犬の行動を学ぶことは、とても大切です。
「何で、今、吠えたんだろう」
「今、何を考えているんだろう」
「犬に感情はあるのだろうか」
飼い犬とのコミュニケーションであったり、仕事の場面でも、「犬にも安心して過ごしてもらうためには」、などといった形で役に立つのが、動物行動学です。
動物の行動を学ぶことで、
「犬って、すごいな~」と、様々な角度から犬を見ることもできます。
「うちの犬にもあるある!」と、犬の気持ちに近づける気がします。
ドッグトレーナーが犬に対するトレーニングのやり方に違いがあるように、動物行動学者によっても、ひとつの行動に対して、全く異なる考え方の時もあります。
研究者は、野外で動物の観察やテストを行う実験や、実験室で統一された条件の中でどのような行動をするのかを実験するなど研究方法も様々で、
この本の著者は、動物たちと共に生活し、関係を持って研究をした「農夫のような型の博物学者」だと自己紹介をしています。
犬を人に例える『擬人化』を否定する行動学者も多いのですが、ローレンツは、
「そもそも、人間も動物である以上、同じような状況が起こりうることも否定できない」
といった内容の発言をして、その言葉を聞いたことが、この本を読んでみようと思ったのがきっかけです。
色々な人の色々な考え方を学び、共感できることを取り入れ、自分自身の犬に対する考えを作ることも、ひとつの楽しみだと思います。
この本では、ローレンツと家族、隣人や友人とたくさんの動物たちとの日常が描かれています。
人と犬との繋がりを、様々な出来事を通じて、行動学からの見解や、ローレンツ自身の思いがとても細かく書かれています。
動物と人間の心理学において、「遊び」についての本当の定義とは何かについてや、
愛情の要求、
嘘をつく動物についてなどでも、
とても興味深い実話もありました。
また、動物と良心の章では、犬の良心として、犬が人を咬んでしまった際、「加害者は心理的な衝撃をうけざるをえなかったのである」と、
犬に、人を咬むという経験はさせてはいけないと思う。と、考えている私にとって、とても興味深いエピソードが綴られていました。
そして、
「動物たちは、単に、法律の条文だけでなく、多くの人びとの鈍感さによっても、生得の権利を踏みにじられているのだ」
という、犬を飼うことに対する著者の強い訴えも多く書かれています。
この本では、ネコについても書かれており、
「ネコの心性は微妙で、野生のままである。それは、動物にたいして愛情を無理やりに押しつけるようなタイプの人には、容易に開かれない。
ネコは、社会的に生きる動物ではない。
イヌは人の世話や甘やかしを非常に感謝してうけ入れるが…
ネコは人をたよりにしない野生の小さなヒョウであり…」
「ネコに自然のままに生きるようにさせ、ネコ自身の自然な状態のなかでネコに接するようにして、ネコのあの身振りにはみせない真実の愛情を得るのがもっともよいということを、私は申しあげたい。それと同時に、その内面の要求をこのようなやり方で尊重してやった動物は、小さな猛獣としてつねにふりかかるあらゆる危険にさらされているという事実を受け入れなければならない。私のネコはどれも天寿をまっとうしなかった。」
などとあります。
「犬にとって何が1番幸せなんだろう」と考えたとき、
大自然の中、自由に駆けまわっている昔の犬の姿だけが、犬にとって幸せそうにも思われますが、犬にとっての幸せは、そこだけではないのだろうと思います。
ローレンツは、「犬は猿よりも人間的である」と書いています。
犬には、人間らしく人間に近い部分がたくさんあるということが考えられます。
犬と関係性を持ったことのある人にしかわからない、「友情」のようなものをローレンツも認めていて、そこにも犬の幸せがあるのではと私は思っています。
犬に対する考え方や接し方は人それぞれですが、犬の行動学の本を読み、自分が感じていたことと同じことが書いてあったり、また違ったとらえ方がある事を知り、
「犬は今、何を思っていて、何をしている時が幸せなんだろう」と考えることは、
とても大切なことだと思います。
人と犬の歴史はわかっていないことも多く、様々な説があるので、私が特別に信じている説はありませんが、何よりも読んでいて面白いです。
ローレンツ自身も、犬の先祖ジャッカル説からこの本の出版後に小型オオカミ説へと変わり、
また、そういった説が変わることで、「犬は群れで生活しているからボスが必要で、飼い主をボスとして順位付けしているから…」というまた別の説も覆されたりもします。
歴史上、何が本当なのかは絶対的なことは、よくわかりませんが、
専門家の様々な考えを少しでも多く知り、少しでも犬が何を考えているのかを知ることができれば、犬も人ももっとハッピーになれるのではと思います。
犬と一緒に生活してこそわかる数々のエピソードを知って犬の凄さを知り、行動学を学ぶことも、犬と関わる楽しみのひとつです。
この本では、歴史の事や日常の出来事、ローレンツの考え方や動物行動学の視点からと、とても多くのことが書かれているため、最後に心に残る部分は、読む人によっても様々だと思います。
犬のことがもっと好きになる行動学の本を読むきっかけとなって頂けたら幸いです。